大学院医学研究科 教員紹介 津川 仁

  • 領 域  : 生体防御学

  • 教員氏名 : 津川 仁(ツガワ ヒトシ)

  • 取得学位 : 博士(薬学)

  • 身分・役職: 基礎医学系生体防御学 准教授

  • 専門分野 : 細菌学・細菌感染と発がん・感染宿主応答

【研究業績】
疾患を制御する細菌対宿主の生物界間シグナルを考える

【所属学会】
日本細菌学会(関東支部評議員)・生体防御学会・日本薬学会・日本癌学会・日本ヘリコバクター学会(評議員)・トキシンシンポジウム(運営委員)・日本潰瘍学会(評議員)・日本微小循環学会(評議員)

研究内容

 約60兆個の細胞からなる私たちの体には、約400種類100兆個の微生物が共生しています。共生微生物の約90%は腸内に存在し、腸内微生物は主として細菌によって構成されています。これら共生細菌の集団(細菌叢)は「Microbiome」または「Microbiota」と呼ばれ、私たちの健康状態(生体の恒常性維持)に密接に関係しています。ここでは、消化管内共生細菌や感染性病原細菌と宿主の相互作用システムを、分子・細胞・個体レベルで多角的に解析し、消化管内細菌バランスの崩壊が引き起こす疾患の発症メカニズムの解明に分子レベルで迫ろうとしています。

①    腸内細菌叢を制御する仕組みとその破綻がもたらす疾患発症のメカニズム
腸管粘膜バリアは、ヒトの管腔側(生体外)と血液側(生体内)の界面に位置し、あらゆる細菌の生体内侵入を防御するため、粘液層、上皮細胞層、および常在免疫細胞により多元的なフロントラインバリアとして構成されています。そのため腸管粘膜バリアの脆弱化は、通常無害な細菌(日和見病原菌)に対しても生体内への侵入を許し全身性の重篤な感染症を発生させてしまいます。従って、加齢や基礎疾患に伴う易感染状態は腸管粘膜バリアの脆弱化によっても誘発されると推察できます。
私たちは、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸が宿主の自然免疫活性を高めることを示し、腸管粘膜バリアには、粘液層、上皮細胞層、常在免疫細胞に加えて腸内細菌も参加していることを明らかにしました(PLoS Biology, 18(9): e3000813, 2020)。つまり、腸管粘膜バリアは、腸内細菌との密接なコミュニケーションの中で構成されていると言えます。さらに、我々は、腸管粘膜マクロファージがGas6分泌を介して、腸内細菌叢内の潜在的病原菌(Pathobiont)を認識し、その病原性を制御していることも明らかにしました
(PLoS Pathogens, 19(6): e1011139, 2023)。 腸管粘膜は、菌対宿主の複雑な相互作用(Transkingdom Signaling)の中でそのバリア機能を維持し生体の恒常性維持に貢献しています。
「なぜ、病原細菌は病気を引き起こすのか?」を理解し革新的な感染症予防治療法を開発するためには、腸管粘膜で生じている”Transkingdom Signals”を正しく理解する必要があります。ここでは、加齢に伴いTranskingdom Signalはどの様に変化するか、そしてその結果、どの様な感染症に罹患し易くなるかを分子生物学的・細菌学的手法を駆使して明らかに
していきます。そしてその成果を基盤に、高齢者をあらゆる感染症から守り抜く技術の創出を目指します。

 

②ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染による胃がん発症の分子機構 
ピロリ菌は胃がんの決定的なリスク因子です。しかし近年、ピロリ菌除菌後でも胃がんを発症する症例やピロリ菌感染者でも胃がんを発症しない症例が明らかにされています。特に、ピロリ菌感染者の中でも胃がんを発症するヒトは約3%程度であり、胃がん発症者はピロリ菌感染者の中から何らかの理由(メカニズム)で選択されていると考えられています。私たちは、ピロリ菌感染者の中から胃がんを発症するヒトがどの様なメカニズムで選択されているのかを明らかにすることを目指しています。
胃発がんモデルマウスを用いた研究から、胃内に共生細菌が存在する状態でピロリ菌を感染させると胃がんを発症するが、胃内をピロリ菌だけにすると胃がんを発症しないことが報告されています。つまり、胃がんの発症には、ピロリ菌に加えて何か特定の胃内共生細菌による特異的な役割が要求されると考えられています。
私たちはこれまでに、がん幹細胞マーカー分子CD44v9を発現する細胞の誕生は早期胃がんの内視鏡治療後の再発につながることを明らかにし(Br. J. Cancer, 109(2):379-386, 2013)、さらに、CD44v9陽性細胞内にはピロリ菌の産生するがんタンパク質CagAがAutophagyによる分解・排除を回避して特異的に安定化することを明らかにしました(Cell Host Microbe, 12(6):764-777, 2012)。これらの結果は、ピロリ菌感染胃粘膜で、CD44v9陽性細胞が発生することが胃発がんリスクを高めることを示しています。さらに私たちは、「CD44v9陽性細胞は、アクチン重合の制御タンパク質CAPZA1の過剰発現細胞へ、ピロリ菌ががん蛋白質CagAを注入することで発生する」ことを明らかにしました(Autophagy,15(2):242-258,2019, Cell. Mol. Gastroenterol. Hepatol.,8(3): 319-334, 2019)。ピロリ菌感染胃内で、CAPZA1の過剰発現が誘導される環境が胃発がんリスクを規定すると考えられます。

○ホームページURL
https://sites.google.com/view/host-defense-mech-transkingdom/home

 

主な論文

  • Tanaka R, Imai J, Sugiyama E, Tsubaki S, Hozumi K, Tsugawa H*. Cyclic-di-AMP confers an invasive phenotype on Escherichia coli through elongation of flagellin filaments. Gut Pathogens, 16: 6, 2024. *Corresponding author

  • Tsugawa H*, Ohki T, Tsubaki S, Tanaka R, Matsuzaki J, Suzuki H, Hozumi K. Gas6 ameliorates intestinal mucosal immunosenescence to prevent the translocation of a gut pathobiont, Klebsiella pneumoniae, to the liver. PLoS Pathogens, 19(6): e1011139, 2023. * Corresponding author.

  • Tsugawa H*, Kabe Y*, Kanai A, Sugiura Y, Hida S, Taniguchi S, Takahashi T, Matsui H, Yasukawa Z, Itou H, Takubo K, Suzuki H, Honda K, Handa H, Suematsu M*. Short-chain fatty acids bind to apoptosis-associated speck-like protein to activate inflammasome complex to prevent Salmonella infection. PLoS Biology. 18(9): e3000813, 2020. * Corresponding author.

  • Tsugawa H, Mori H, Matsuzaki J, Sato A, Saito Y, Imoto M, Suematsu M, Suzuki H. CAPZA1 determines the risk of gastric carcinogenesis by inhibiting Helicobcater pylori CagA-degraded autophagy. Autophagy, 15(2): 242-258, 2019.

  • Tsugawa H, Suzuki H, Saya H, Hatakeyama M, Hirayama T, Hirata K, Nagano O, Matsuzaki J, Hibi T. Reactive oxygen species-induced autophagic degradation of Helicobacter pylori CagA is specifically suppressed in cancer stem-like cells. Cell Host Microbe, 12(6):764-777, 2012.