大学院医学研究科 教員紹介 馬渕 智生

  • 領 域  : 皮膚科学

  • 教員氏名 : 馬渕 智生(マブチ トモタカ)

  • 取得学位 : 博士(医学)

  • 身分・役職: 専門診療学系皮膚科学 教授

  • 専門分野 : 乾癬、分子遺伝学、免疫学

【研究業績】
遺伝学的手法による乾癬の病因解析、免疫学的手法による乾癬の病態解析

【所属学会】
日本皮膚科学会、日本臨床皮膚科学会、日本乾癬学会、日本研究皮膚科学会、The Society for Investigative Dermatology、Korean Society for Psoriasis

研究内容

 乾癬は、銀白色の厚い鱗屑(かさぶた)に覆われた紅斑(赤い発疹)が全身に多発、融合する皮膚症状を主体とし、不可逆性の関節変形に至る関節症状、心血管系イベント、脂質異常などを合併する全身性炎症性疾患で、慢性かつ難治性の経過をたどり、生命予後にも影響を及ぼす。遺伝的因子に喫煙、外傷、感染症など多数の環境因子が加わって発症に至る多因子性疾患であると考えられているが、その全容はいまだ解明されていない。そのため、多くの治療薬、治療方法が存在するものの、いまだ乾癬の根治療法は存在してしない。われわれ専門診療学系皮膚科学教室では、医学部開設以来、分子遺伝学的手法および免疫学的手法を用いて乾癬の病因および病態の解析を進めてきた。
 乾癬の遺伝性は、疾患発症に対して強い効果を持つ単一の遺伝子によって発症するメンデル遺伝性ではなく、比較的弱い効果を持つ複数の遺伝子が家系を通して個体に集積されることによって発症する非メンデル遺伝性の複合遺伝性疾患であると考えられている。ヒトの第6染色体短腕6p21に存在しているHLA(human leukocyte antigen;ヒト白血球抗原)領域は100以上の疾患との関連性が知られているが、乾癬もHLA-Cとの人種を超えた強い関連性が知られており、われわれは、HLA抗原の血清学的タイピングにより、日本人における乾癬とHLA-C抗原(HLA-Cw6、-Cw7)との強い相関を報告した(小澤ら、皮膚病診療. 19 :901-906, 1997)。HLA-Cw6は特に若年発症患者との相関が報告されており、われわれは日本人でも強い相関がみられることを確認し、さらに、日本人では高年発症患者とHLA-C*12:02が相関していることを新たに発見した(Mabuchi et al. J Dermatol. 41 : 697-704, 2014)。2003年、国際的プロジェクト「ヒトゲノム計画」が完了し、ヒトゲノムの塩基配列のほぼすべてが解読された。われわれは、この情報を利用し、全染色体を対象とし、かつ高解像度な遺伝的相関解析を行い、BTNL2遺伝子、CADM2遺伝子、IL12B遺伝子など複数の乾癬の原因遺伝子を見出した(Mabuchi et al. Tokai J Exp Clin Med. 32 : 6-13, 2007、Hiruma, Mabuchi et al. Biochem Biophys Res Commun. 412 : 626-32, 2011、Oka, Mabuchi et al. Immunogenetics. 65 : 823-8, 2013)。その一方で、ヨーロッパ系民族、中国人、モンゴル人で人種を超えた相関が認められているIL23R遺伝子との相関、LCE3C_LCE3B遺伝子欠損との相関については日本人では認められず、分子遺伝学的背景には人種差があることが海外の多施設との共同研究によって確認された(Riveira-Munos, Mabuchi et al. J Invest Dermatol. 131 : 1105-1109, 2011)。
 一方、乾癬の病変部では、リンパ球、樹状細胞、表皮細胞が種々のサイトカイン、ケモカインを産生することによって、その病態が形成、維持されている。なかでも、2000年代半ばに発見されたヘルパーT(Th)17細胞が産生するインターロイキン(IL)-17、IL-22、および、この系の上流で機能しているIL-23が重要な役割を担っている。すなわち、IL-23刺激によってTh17細胞で産生・分泌されたIL-17がケモカイン、炎症因子を惹起することで、また、同様にTh17細胞で産生・分泌されたIL-22が表皮の分化異常を惹起し、表皮肥厚を促進することで、乾癬の病態が形成されていると考えられるようになった。われわれは、IL-23をマウスの耳に皮内注射することで、病理組織学的に乾癬に類似した炎症反応を再現した実験系を用いて、IL-23刺激の反応のごく初期の段階でγδ T細胞の一亜型が増加し、IL-23による乾癬様の炎症反応誘発において、重要な役割を担っていることを報告した(Mabuchi et al. J Immunol. 187 : 5026-31, 2011)。さらに、このγδ T細胞はケモカインレセプター(CCR)6を発現し、IL-17、IL-22を産生、分泌していることも報告した。ここにおいて、Th17細胞と称されている細胞は、これまで知られているαβ T細胞だけではなく、γδ T細胞の一部も同様の働きをしていることが世界に先駆けて解明された。CCR6はケモカインレセプターの1つであるが、そのリガンドはケモカインリガンド(CCL)20のみであること、そしてIL-22によって刺激された角化細胞は異常分化するとともに、早期からCCL20を産生、発現することが知られている。われわれは上記の実験系に抗CCL20抗体を加えることで乾癬様の炎症反応を有意に抑制することに成功し、新たに報告した(Mabuchi et al. J Invest Dermatol. 133 : 164-171, 2013)。
 この数年で、われわれも乾癬との相関を確認したIL12B遺伝子など、乾癬の病態形成に重要な働きをしているサイトカインに関連した遺伝子と乾癬との相関が報告されるようになった。病因と病態がリンクしつつあり、2つの異なった手法で解析を進めることが可能なわれわれの施設に寄せられる期待は大きい。われわれは病因・病態の解明を進めると同時に、これらの解析結果を応用し、いまだ根治療法が存在しない乾癬治療においての新規の治療薬や治療法の開発、ならびに治療効果や予後を推測できる検査指標の発見、確立を進めている。

主な論文

  • Mabuchi T, Ota T, Manabe Y, Ikoma N, Ozawa A, Terui T, Ikeda S, Inoko H, Oka A. HLA-C*12:02 is a susceptibility factor in late-onset type of psoriasis in Japanese. J Dermatol. 2014; 41: 697-704.

  • Oka A, Mabuchi T, Ikeda S, Terui T, Haida Y, Ozawa A, Yatsu K, Kulski JK, Inoko H. IL12B and IL23R gene SNPs in Japanese psoriasis. Immunogenetics. 2013; 65: 823-828.

  • Mabuchi T, Singh TP, Takekoshi T, Jia GF, Wu X, Kao MC, Weiss I, Farber JM, Hwang ST. CCR6 is required for epidermal trafficking of γδ-T cells in an IL-23-induced model of psoriasiform dermatitis. J Invest Dermatol. 2013; 133: 164-171.

  • Mabuchi T, Chang TW, Quinter S, Hwang ST. Chemokine receptors in the pathogenesis and therapy of psoriasis. J Dermatol Sci. 2012; 65: 4-11.

  • Mabuchi T, Takekoshi T, Hwang ST. Epidermal CCR6+ γδ T cells are major producers of IL-22 and IL-17 in a murine model of psoriasiform dermatitis. J Immunol. 2011; 187: 5026-5031.